自分が大好きな食べ物を、それほど好きじゃないとか、いらないとか言われてスルーされることほどショッキングな事は無い。
だが、年齢・性別によって食の好みは違いが存在する。
私が子どもの頃一番ショッキングだったのは、父方の祖父と二人で留守番をしていた時の事だった。
その日は雨が激しく降っていた。
母親から電話で、何か出前を取るようにといわれたので、近所のラーメン屋に電話を掛けて出前を取る事になった。
普通のラーメンでいいね、と祖父に確認したところ、あー、俺はラーメンなんて食べんよ。とにこやかに祖父は言い放った。
小学生の私は耳を疑った。
なんですって。
ラーメン食べたくないとか、そんな人がこの世に存在するなんて。
多少困惑しながらも、じゃあ仕方が無い、と私はラーメン屋に電話した。
ラーメン一杯、お願いします。
ラーメン屋さんも明らかに困惑していた。
この土砂降りの中、たった一杯かよ・・
電話の相手は小学校低学年の女児である。
断ったら、一人ぼっちで飢え死にするかもしれない。
わ、分かりました。ラーメン一杯ですね。
ラーメン屋さんも困惑しながらも出前をちゃんと持ってきてくれた。
うちの父の話によると、父も祖父相手に子どもの頃、全く同じ思いを味わった事があるそうだ。
それは、ラーメンではなくキャラメルだった。
戦後間もない頃の子どもにとってはキャラメルというのはこの世で一番美味しいものの一つであったことは想像がつく。
ある日父が、祖父に向かってキャラメル食べるか、と差し出したところ、祖父は例のにこやかな顔で、いやー、おれはキャラメルなんか食べんよ、と言い放ったそうである。
父も思ったそうである。
こんなに美味しいものを食べないなんて、なんてこの人は不思議な人なんだろう、と。
しかし今考えれば祖父の気持ちは少し分かる。
老人はラーメンのようなこってりしたものは、あまり好まないだろう。
大人の男性は、一般的に甘いものがあまり好きじゃない人が多い。
今考えてみると、祖父が取り立てて変な人ではなかったことが分かる。
祖父の名誉挽回である。






